ギターを奏で、想いを歌い、絵を描き、物語を綴る、7枚目のコンセプトアルバム『星飼いの少年』。
“AKIHIDE史上、最も優しくて切ない世界”というキャッチフレーズが付けられた今作が、どのように作られていったのか。
3章に渡り、ゆっくりと紐解いていきます。

音もお話も“分かりやすくて好きなもの”を作りたかった

Text:池村季子

——7thアルバム『星飼いの少年』は、12曲の楽曲と、AKIHIDEさん自身によるアート作品と共に綴られたコンセプトストーリーブックで構成されています。制作はどういった流れで進んでいったのでしょうか?

「2018年に行なった“NAKED MOON -裸の月-”というツアーが、アコースティックギターの独奏と弾き語り、ウッドベースのスナパン君(砂山淳一)とのデュオセクションという最小編成のライブだったんです。それがすごく楽しかったので、“この感じを形にしたい”という想いが、まずはありました。最初にガットギター1本でも成り立つ曲を、と思ってできたのが『涙の海、越えて』。もともとは別のタイトルだったのですが、この曲ができてからは、お話と曲を行ったり来たりしながら制作を進めていきましたね」


「AKIHIDE “SOLO” LIVE 2018 NAKED MOON -裸の月-」公演より

——『涙の海、越えて』は、最初は何というタイトルだったのでしょう?

「『紫陽花の海』というタイトルを付けていて、なぜ紫陽花だったかと言うと、2019年の6月に行なった“Premium Night Show”というライブが、ちょうど梅雨時期の開催だったので、紫陽花をテーマにしようと思っていたんです。それで曲をイメージしたお話と絵をスタッフさんに見せたところ、僕らしくないという意見が出まして(笑)。紫陽花という案は消えて、ライブ自体はリクエストライブになりました」

——そこから今回のアルバムのテーマには、どうやって辿り着いたのですか?

「制作にあたって何かワードが欲しいなあと思った時に、ふと浮かんだのが“星飼いの少年”でした。前作の『機械仕掛けの遊園地 –Electric Wonderland-』で2万字ぐらいのお話を書いて、キャラクターの心情に向き合いすぎたのか、アルバムをリリースしたあとも、その世界から抜けられなくなっちゃったんですよね。タワーレコードさんのフリーペーパーの連載でスピンオフのお話を書いたりして、自分の作ったキャラクターへの執着がどんどん強くなっていって、別のお話が湧いてこなかったんです。でも、リクエストライブを経て“星飼いの少年”という言葉が出てきて、やっと新しい想像ができるようになった。そこからは大まかなストーリーがパパパッと浮かんでいきましたね」


6thアルバム「機械仕掛けの遊園地 -Electric Wonderland-」アートワーク製作作業風景より

——これまでにも、星や月、空といったワードがAKIHIDEさんの作品にはよく出てきましたよね。やはり特別な存在なのでしょうか?

「インスピレーションをもらうことが多いです。月や星って見上げれば絶対にあるものだし、どの時代、どの場所でも変わらず感じられるものをキーワードにしたいという想いが強くて。天体に詳しいわけではないのですが、地方に行った時などに満天の星が見えると、嬉しくなりますね」

——コンセプトストーリーは、その“星”にちなんだ内容になっています。執筆する際に意識したことはありますか?

「前作は2万字もあったので、それよりはライトにしようと思っていました。曲も前作は変拍子のものがあったり、作風的に難しい要素が多かったと思うのですが、今作は音もお話も入っていきやすくしたかったので、長くて複雑なものではなく、シンプルにしよう、と。あとは、“僕”や“君”という言葉遣いも、登場人物によっては、漢字だったり平仮名だったり片仮名だったり、表記を変える“文字ルール”を自分なりに作りました。ほとんどファミレスでの作業で、設定やワードをノートに綴っていって、お話はスマホのメモに打っていくんです。書いては読み直すというのを繰り返して、時々サウナに行って考えたりもしましたし、書き上げるのに1か月ぐらいかかったと思います」

——ファミレスの騒がしい空間でも大丈夫なんですね。

「たまに土地の売買の話とか、濃い話をしている人たちが隣に座っていると意識がそっちにいっちゃうんですけど(笑)、基本的には周りがざわざわしているほうが書きやすいですね。サウナに関しては、血流が良くなるからか、脳が活性化してアイデアが湧きやすいんですよ」


7thアルバム「星飼いの少年」ジャケット写真撮影風景より

——そんな空間から生まれたお話が、ブックレットの、とあるページに載るわけですが、ブックレット全体に関しては、どんなことを意識しましたか?

「“違和感”を出したいと思っていました。例えばBREAKERZや今までのソロでは僕の色としては“青”のイメージが強いのですが、今作では今まであまり使ってこなかった“赤”をメインにしています。そこも違和感ですし、あと、違和感とは逆かもしれませんが、“小難しくても好きなものを”と思って作っていたこれまでの作品とは違って、今回は“分かりやすくて好きなもの”を作っていこうというのが新しいワードとしてあって」

——その変化は、どこから出てきたのでしょう?

「お話に関して言うと、全編がファンタジーだと感情移入しづらいのかなと思ったんですね。僕が好きな村上春樹さんにしても、村上龍さんにしても、入り口は現実的で、そこから別の世界に迷い込んで戻ってくるお話が多い。ジブリの『千と千尋の神隠し』もそうですよね。入り口が身近なほうが、お話を読んでくださる方や音を聴いてくださる方は入りやすいだろうなと思ったので、今回は“男女の一般的なお話”という入り口を作りました。なので、先程お話しした星の物語については、アルバム全体のお話に出てくる主人公が迷い込んでしまった“一瞬の世界”というイメージなんです」

——なるほど。アルバム全体を語ったお話ではなく、ある部分を切り取っているのですね。それにしても“分かりやすくて好きなもの”という発想は、とても優しいですね。

「今作のキャッチフレーズが、“AKIHIDE史上、最も優しくて切ない世界”ですから(笑)。そういう意味の優しさも作品に込めていて、そういった細かい裏設定が実は今回、色々とあるんですよ。純粋に音を楽しんでいただくだけでも嬉しいのですが、細かく探っていただくと、噛めば噛むほど楽しめる作品になっているので、ぜひじっくり楽しんでいただければと思います」

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