コンセプトストーリーについてご紹介した前回に続き、今回語ってもらうのは、ビジュアルやアート作品について。
パソコンを使わず、全て手作業で制作していったというアート作品に、AKIHIDEが込めた想いとは…。

思い出は、やがて血肉になり、自分の一部になるのだと思う

Text:池村季子

——コンセプトストーリーブックレットで使われているアート作品について、お話を聞かせてください。

「今回はパソコンを一切使わず、手で描いたものを自分で切って、重ねて、立体にして、それを一眼レフで撮影して仕上げていきました。アート作品が好きで色々見ているうちに、立体的なものに興味が湧いてきたんです。それでガッツリ作ってみたいなと思ったのですが、パソコンでは表現しきれないので、全て自分で手作りしてみよう、と。1ミリくらいの厚紙に下塗り材を塗って、その上に、赤、黄色、緑、紫などの色を乗せて、さらにスポンジローラーで黒く塗ったあと、下塗り材でまた真っ白にして。その行程が終わって、やっと色が塗れるんです」

——大変な作業ですね。

「デザインチームのリーダーの方が、その作業をすることで絵に深みが出ると教えてくださって、最初は僕も半信半疑だったのですが、実際にやってみると、ただのペラの紙が、どんどん深みのあるものになっていったんです。絵を習ったことのない僕でも、気持ちのまま色を乗せていくだけで味のある絵が描けたので、すごいなぁと思いました。最初は小さなサイズのものをテスト版として作って、そのあと少し大きなものを作って、これでいけそうだなと思ったら、切ったり塗ったりしながら実際に使用するサイズのものをデザインチームの方たちと一緒に作っていきました」

——同じものをサイズ違いでいくつか作ったということですか?

「そうです。絵を描くのも大変でしたが、カッターでの切り出しも大変でしたね。最初に使っていたのが切れないカッターだったみたいで、腕が筋肉痛になっちゃって(笑)。かといって、いいカッターを使うと今度は指を切っちゃうし、難しかったです。この制作だけに集中すれば3、4日で終わったと思うのですが、ほかと並行しながらの作業だったので、1つ作るのに1か月ぐらいかかりました。2月のライブ(AKIHIDE MUSIC THEATER –星の還る場所-)で作品を展示すると思うので、ぜひじっくり見ていただきたいですね」


「ありふれた物語」プロモーションムービー撮影風景より

——そうやって完成したものが、9曲目の『ありふれた物語』のプロモーションムービーでも使用されているわけですが、映像では男女の切ないお話が表現されていますね。

「アルバムを象徴する曲でもあるので、温かさが伝わる映像にしたいと思っていました。別れの曲を明るい曲調で表現するのが好きで、これまでもそういった曲を書いてきましたが、ここまで前面に押し出したことはなかったので、今回、映像でもしっかり表現したかったんです」

——表現されているのは、まさに“優しくて切ない世界”。撮影に関してはいかがでしたか?

「どうすれば動きがスムーズに見えるか、家で夜な夜な研究しながら人形を作り上げていって、撮影では僕と男性マネージャーのふたりで人形を操ったのですが、音と同じで、映像も隙間が大事なんだなと思いました。隙間があるからこそ想像で聴こえてくる音があるように、映像も隙間を作ることで見えてくるものがある。そういった理由から、キャラクターの目と口は、あえて描かなかったんです」

——人形を操っている赤い糸も、アルバムにとって大切なキーワードですね。

「赤い糸によって男女が引き寄せられて、結ばれて、最後に別れの痛みを知る…。赤い糸はこの作品の中では“血管”の意味もあるんです。誰にとっても思い出って、やがて血肉になって自分の一部になると思うんですね。僕の中にはそういったイメージがあるので、最初から赤い糸を使いたいなと思っていました」


アルバム「星飼いの少年」ジャケットアートワーク制作風景より

——もう1曲のプロモーションムービー『星追いの少女』は、アルバムのジャケット写真の世界観をそのまま映像化した内容になっています。

「ジャケ写自体にも深い意味がありまして…。ストーリーブックで書いた男の子の心が、実はボロボロの傷ついた状態なので、それを写真でも表現したいとスタッフさんにお伝えしたところ、ツギハギだらけなんだけど、すごく素敵な衣装をスタイリストさんが作ってくださいました。そして、ギターも真っ赤に塗って、赤い星をちりばめて…。その赤も綺麗な赤というよりは、深みがある赤なんですよね。血の色に近い赤というか、ちょっとギリギリな赤を表現したいと思っていました」

——それが前回のインタビューでお話していた“違和感”にも繋がるわけですね。

「そうですね。楽曲で聴きやすさを意識したぶん、ビジュアルでは尖ったものを見せたかったんです。今ってインターネットが当たり前に普及して、文化や感覚の伝わり方が昔とは違ってきましたよね。スマホの小さな画面を見てもパッと目に飛び込んでくるものを、と考えた時に、赤はインパクトの強い色味だし、今までの自分にはなかったイメージカラーなので、とてもいいなぁと思いました」


アルバム「星飼いの少年」ジャケット撮影用に作成されたギター

——そして初回限定盤では、即興演奏に乗せたコンセプトストーリーの朗読も聴くことができます。朗読に関してはいかがでしたか?

「自分なりの最大限で頑張ってみましたが、やはり難しかったですね。声優さんと比べるのはおこがましいですが、プロの方はすごいなと思いました。(→後ろに流れている演奏は、ほぼ一発録音でアドリブで弾いていて、)お話で語っている感情をそのままギターでも表現したんですよ。そのバランスも面白いと思うので、音にもぜひ注目してもらいたいです」

——それぞれのキャラクターの声色の変化も、とても心地良かったです。

「自分の中で声を響かせる場所を頭の中で想像して、発声の仕方をキャラクターによって変えたんです。ある人物は右の上のほうで響かせて、ある人物は左の奥のほう、ある人物は下のほうを意識する。そうやって音程の位置を決めたものの、すごく難しくて。録音した自分の声を聴くと違和感しかないと思うのですが、それと同じで、歌と違って自分の話し声を聴く機会ってなかなかないから、判断が難しくて、スタッフの方にジャッジしてもらいながら録音していきました。あと、意外と発音やアクセントが難しかったですね。ちょっとしたトーンの違いで物語の伝わり方って変わるんだなと思いましたし、日頃、使い慣れているアクセントが実はおかしかったのもあって、その辺りも気を付けながら進めていきました。まぁでも自分の作品なので、僕の朗読もアリなのかなということで、ファンの皆さんに喜んでいただければと思っています」

——20分ぐらいのちょうどいい長さで、大人のための読み聞かせといったイメージでした。

「そうですね。歌とはまた違った世界観が感じられると思います。ぜひ眠りにつきながら聴ていただけると嬉しいです」

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