8thアルバム「LOOP WORLD」オフィシャルインタビュー

苦しみや悲しみと共存できた時、人は強くなれる

前作『星飼いの少年』から、わずか10ヶ月。当たり前の生活が送れなくなった今、私たちができることは、時代との共存。そんななか制作された新作『LOOP WORLD』からは、ループペダルを使った新しい表現方法を見出し、時代としなやかに共存したAKIHIDEの“今”が、音や歌詞、プレイから感じ取れる。繰り返される日々に佇み続けるのも、抜け出すのも自分次第。あなたもこの作品を手に、新しい一歩を踏み出してみませんか?

Text:池村季子

——『星飼いの少年』からわずか10ヶ月での新作リリースとなりますが、その間に世の中の状況が変わってしまいましたね。

「皆さんも同じだと思うんですけど、自粛期間中は先の見えない閉塞感が続いて、さすがにしんどかったです。音楽業界全体がまだまだ厳しい状況ですし、今までどおりではダメなんだという現実と向き合う日々ですね。『LOOP WORLD』は、まさにそこから生まれた作品です」

——このタイミングでのリリースには、大きな理由がありそうですね。

「何もしないでいると、僕自身が見えない明日に押しつぶされそうだったんですよ。この半年、オンラインで配信を続けてきて、見てくださる方がいたから頑張れたし、曲を届けることでファンの皆さんに少しでも前向きになってもらいたかったから、今のこの熱を持って新しい作品を発表しようと思いました。10ヶ月という短いターンでのリリースになりますが、今伝えたい、共有したい想いが詰まったアルバムになっています」

——自粛期間中は、どんなふうに過ごしていましたか?

「最初の1ヶ月は曲作りをほとんどしてなくて、ステイホームをしていました。でも、この状態がすぐには落ち着かないことが分かって、まずはBREAKERZの配信がスタートして。それからソロの配信ライブをやってそこで出会ったのがループペダル(録音と再生を繰り返して音を重ねることができる機材)なんです。それからは、ずっとループペダルをいじってましたね。もともとあった曲をループペダル用にアレンジしたり、ループペダルがあることで生まれた曲もありますし。アルバムで伝えたいことがループペダルによって具体的になったので、そういう意味でも配信の存在は大きかったです。音楽家としてのターニングポイントと言えるし、ループペダルというひとつの表現を始めるきっかけになりました」

——ループペダルという機材は、テクニックがないと使いこなせないですよね。

「これね、ほんと難しいんですよ。録音の順序に法則があって、アレンジもパズルみたいなんです。あと、ペダルを踏むタイミングがずれると、全部がずれていってしまう。普通の演奏だったらミスっても流れていって終わりだけど、ループペダルはミスったら延々その繰り返しですから。だから配信ライブの時は1ヶ月くらい前から練習して、ミックスのバランスも1ヶ月、2ヶ月かけてゆっくり作っていくんです。今は少し慣れましたけど、それでもすごく難しいですね」

——その緊張感とテクニックは、動画から伝わってきます。

「ループペダルは映像ありきなところがありますよね。今回のアルバムはループペダルを使って全部ひとりで録ったので、難しくもあり、楽しくもあり。マニュアルもないし、習うものじゃなくて自分で発見していくものなので、それがまた楽しかったです」

——音が繰り返されるということは、ずっと同じハーモニーが続くわけですよね?

「そうです。バンドアレンジだともっと複雑に作れる曲も、ループペダルだと音同士が“いかにぶつからないか”が重要になってくる。さらに、コードが変化しているように聴かせるにはどうすればいいか考えないといけないんですよ。仮にぶつかっていてもOKな時もあるし、トライアンドエラーを繰り返しながら作っていきました」

——そして、アルバムには今回もコンセプトストーリーが付属しますが、伝えたかったメッセージは?

「今だからこそ生まれたお話というのは確かですが、生きていると訪れる理不尽なことや、目に見えないものへの不安って、ほかにもたくさんあると思うんです。大事なことは一歩を踏み出す勇気と、悲しみや苦しみとの共存。今の世の中の状況を軸に設定を肉付けしていきましたけど、僕自身が前に進む力がほしいという、根本はそこですよね」

——先ほどのループペダルに加え、コンセプトストーリーでも“ループ”がキーワードになっていますね。

「自粛期間中、時間の感覚がなくなったんですよ。ライブができなくなって、未来の予定も立てられず、今日が何曜日だか分からなくなった。同じ日の繰り返しだなって思ったんです。明日って来るのかな? って。その状況がまさにループだったし、過去曲をループアレンジした『In the“LOOP WORLD”』で過去、そして『LOOP WORLD』で現在、未来を巡っていく、つまりループしていく作品になっているんです。それと、8枚目のアルバムなので円でもある“0”がふたつで“8”になるし、8を横にしたら無限大のマークにもなる。全て8繋がりで運命めいたものを感じました。ちなみに曲数も8曲で、初回限定盤と通常盤の2枚を買うと8888円になるんですよ、価格はスタッフさんの提案ですが(笑)。全部が繋がっていると気付いた時に、あ、これをテーマにすべきなんだなって思いました」

——ビジュアル面に関してはいかですか? 今回は淡い青がテーマカラーになっていますが。

「水色がかっていて優しいイメージですよね。前作までは暗い曲が多かったので、今回は明るい曲を多めにしたいなと思って。そうするとビジュアルに関しても、おどろおどろしいものではなく、どこか優しい色に自然となりました。ストーリーブックでも青を使っていて、今回もほぼひとりで作り上げたんですよ。制作をして、自分でライティングして、写真を撮って。時間があったから色々勉強できたし、ライブ配信をするようになってから“画(え)”に対するこだわりが、より強くなりましたね」

——確かにライブ配信の映像は色味が素敵ですよね。

「配信動画サイトとかを見た時に一番気になるのが、画が綺麗かどうかなんです。自分でもそこを追及していくと、このカメラがいいとか、こういうレンズがあるんだなとか、どんどん楽しくなっちゃって(笑)。普通のライブ映像とは違って、見ている人がスチールの世界に入っていくような動画を作りたくて、プロのカメラマンさんによく相談しています」

この作品が皆さんの原動力になれば嬉しい

——では、楽曲についてうかがいたいと思います。基本的には自粛期間以降に作った曲ばかりですか?

「いえ、前作のツアー時期に書いた曲もあります。『LOOP WORLD』と『New“Today”』の2曲がそうなんですけど、もともとバンドアレンジだったのを、今作用にループペダルのアレンジにしました。『LOOP WORLD』は去年の暮れか今年の始めにピアノを入れたバンドアレンジで進めていたんですけど、あまりピンとこなくて。しばらくたってループペダルで演奏してみたら、“これだ!”と。曲自体がこのアレンジを待っていたんでしょうね。その流れで『New“Today”』もループペダルで仕上げていきました。ほかのインスト曲に関しては、ループペダルでアルバムを作ると決めてからでき上がった曲ばかりですね」

——収録曲順にお話をうかがいたいのですが、まずは『迷子の朝』について教えてください。

「ループワールドへの入口という意味で、ここではループペダルはあえて使っていません。YouTubeのチャンネルで“絵本動画”を公開しているのですが、その中の『迷路の人』という作品のBGMに使っている曲で、繰り返される迷子の朝が始まったというイメージですね」

——そして先程もお話に出た『LOOP WORLD』からは、先の見えない日々を乗り越えて次のステップへ行くという強い意思が感じられます。

「“ため息はマスクの中”というフレーズのとおり、想像ではなく“NOW”な状況を綴ったので、歌詞は意外とすぐ出てきました。作業的には彫刻を掘るのと似ているのかな。最初から掘りたい形が分かっていて、掘っていくうちに自然と姿が出てきたというか。さっき言ったとおり、もともとはバンドアレンジだったんですけど、ループペダルを使ったことで存在感が増して、この曲がアルバムの軸になりました」

——続いては『夜の獣』。

「びっくりされるんですけど、ドラムみたいな音はギターのボディを叩いて出した音なんですよ。叩く場所や叩き方によって音が全く違うので、色々試しましたし、そのおかげでボディを叩くのが上手くなりました(笑)。ミックスはエンジニアさんにお願いしたんですけど、ループプレイだから基本的に僕が弾いたものが全てなんですよね。録音の時点で音のバランスがとれていないとエンジニアさんが困るので、マイクの位置を変えたり、音の歪みの調整を細かくしたり、黙々と作業していきました」

——明るめの曲が並ぶ中、この曲はダークというか、混沌とした雰囲気ですね。

「自粛期間中、得体の知れない獣みたいなものが心に襲ってきて、眠れない夜があったんです。ライブを軸にスケジュールを組んで活動しているのに、ライブができない状況になって、とてつもなく不安で。その時に初めて自分って意外と弱いんだなと気付きました。それが歌詞やメロディーに表れていると思います」

——そして、このあとはインストが3曲続きます。

「『樹海』はループプレイをイメージして最初にできたインスト曲で、アルバムのインスト部門を引っ張る曲になったと思います。樹海っていうと暗いイメージがありますけど、この曲では、怖いというよりは、ちょっとポップで憎めないイメージというか。ファンタジックな感じを上手く表現できたかなと思います。『蛍火』は、これも異世界が表現できたらいいなと思って作った曲ですね。ストーリーブックに蛍火が舞っているような絵があって、異常でありながらも綺麗で儚い、そんな世界観を表現しました。そして『真夜中に咲く花』は、マイナーで壮大な曲を作りたいなぁと思ってできた曲。スパニッシュテイストで、前作の流れを汲んでいます。3曲ともループプレイが刺激的だったからか、わりとすぐ仕上がりましたね」

——そして7曲目の『New“Today”』は、もともとはバンドアレンジだったとのことですが。

「『真夜中に咲く花』で物語のクライマックスシーンを迎えて、それを乗り越えたあとの『New“Today”』なんです。この曲は、歌詞がメロディーにピタッとハマった感覚がありました。変わっていくことを嘆くのではなく、ポジティブに捉える。そんな主人公の心境と今の僕の心境がリンクしていて。時間は勝手に進んでいくから、新しい日々を前向きな今日に変えられるかどうかは自分次第という。演奏していて自分でも元気になれる曲なので、ファンの皆さんにも、この曲を聴いて少しでも元気になっていただきたいと思います」

——ラストの『おかえり』は、タイトルどおり温かくて優しいナンバーですね。

「ファンの方と再びライブで会った時に、“おかえり”って言いたいし言われたいなと思って作った曲です。バンジョーギターにブラシを使ってリズムを刻んでいるんですけど、それをループさせて、上からジャズギターを重ねました。この曲だけエレキを使っているので、ループワールドから抜けたというか、違う世界に踏み出したイメージですね。次の作品への入り口にしたいなと思ったので、ほかの曲と毛色が違うと思います。クリスマスライブではピアノと一緒に披露する予定なので、楽しみにしていただきたいですね」

——12月19日のクリスマスライブは、リアルでお客さんと会えるんですよね。

「そうなんですよ。来年はなんとかこのループワールドから抜けられることを願って、サポートミュージシャンのみんなと一緒に2020年の締めをしたいと思っています。その前に配信ツアーもあるのですが、配信ライブの4公演と、クリスマスライブの2公演、全て違うセットリストでお届けしようと思っているんですよ。配信ライブのほうはテーマに沿って雰囲気やセットリストを変える予定なので、すごく面白いと思いますよ」

——配信ライブでは、お客さんとのやり取りもできるのですか?

「もちろん、もちろん。そのやり取りがすごく大事ですね。メッセージを送ってくださると、見てくださっている方のことが想像できるし、ライブ中も僕の力になるんです。勉強や仕事、育児に忙しい方や、なかなかライブに来られない遠方の方、体調を崩して外に出られない方も、配信だったら気軽に参加できると思うので、ぜひたくさんの方に見ていただきたいです。そして、クリスマスライブは、サポートメンバーやスタッフの皆さんと一緒に、未来に繋がるようなステージにしたいなと。今回のアルバムの曲もクリスマス・スペシャルエディションとしてバンドアレンジでお届けする予定なので、楽しみにしていてください」

——まだまだ大変な状況が続く中、こうして作品を形にして、ライブを行ってくださることが、ファンの皆さんにとっては一筋の希望の光になると思います。

「僕が出来ることって、前向きな作品を作って、ライブをすることなんですよね。皆さんがいるからこの作品ができたし、この作品が皆さんの原動力になればいいなと思いながら制作していきました。まだまだ闇の中から抜けられない方もいらっしゃると思いますが、ずっと先の未来は見なくてもいいと思うんです。まずはちょっとした一歩を踏み出すことが大事で、そのちょっとした一歩にこのアルバムを使っていただけると、もしかしたら何かが変わるかもしれません。苦しみや悲しみとの共存ができた時、人は強くなれると思うので、まずは小さな一歩から一緒に踏み出しましょう」